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インタビュー内容紹介

polarisの新企画 "Another Try! 〜東大女子の浪人体験記〜" 、第三回は文学部社会学専修3年のA.T.さんにお話を伺いました。



都道府県:

東京都

名前:

A.T.さん

出身高校:

都内・中高一貫・私立

入学時の科類:

文科三類

進学先:

文学部社会学専修

予想外の出来事

ーそれでは、早速お話を伺っていきたいと思います!まず、東大を志望し始めた時期やきっかけを教えてください

 高1くらいには東大を視野に入れ始めました。私の通っていた中高は、東京の進学校だったので東大生のOGが登壇して大学生活を語ってくれたり、東大の学祭やオープンキャンパスにも積極的に参加したりしていて、周りが自然と東大を目指していたので自分も志望を東大に考えるようになりました。高2くらいで東大を本格的に志望し始めました。
 東大が良いなと思った理由はいくつかあります。1番の大学で優秀な学生が集まるからというのが最大の理由ですが、ほかにも、キャンパスが大きいのも魅力でした。特に本郷キャンパスは緑も多くて憧れていました。五月祭の雰囲気も良かったので、行こうと決めました。

ーもともと文科3類志望でしたか?

 心理学に興味があって、東大の学部紹介冊子に社会心理があったのでそこに行きたいと思って文科3類を選びました。心理学以外には、統計も面白そうだと感じていました。

ー浪人する前は親に浪人を反対されたり、「浪人したくない」という気持ちはありましたか?

 親に浪人を反対されていたわけではないですが、自分の中で現役で大学に進学したいと思っていたので、浪人する気はありませんでした。現役のときは成績がC判定くらいで合格率が半々くらいだったので、落ちても私大で良いかと思っていました。

ー浪人は予想外だったということですか?

そうです。

ー予想外だったのにもかかわらず、浪人しようと決意したきっかけはなんですか?

 東大が不合格でとても落ち込んだのですが、慶應は合格が決まっていたから「もうここに行こう」と吹っ切っていたつもりが、合格発表日の翌日の点数通知書でギリギリ数点差落ちだったことを知らされ、我に返りました。ただ、浪人を考えた時に、予備校に行って浪人をやれる自信がなかったのと、来年東大や私大に合格できる保証はないという不安がありました。慶應も楽しみながら東大を目指しても良いよね、と家族で話していたときに、仮面浪人することを決めました。

大学生そして受験生

ーA.T.さんは慶應に進学し大学生として過ごしながら、仮面浪人という形で東大受験に向けて準備することになったそうです。大学生活と受験勉強の両立について聞きます。

ーいつくらいから「東大に行きたい」という気持ちが再燃しましたか?

 5月くらいですかね。もともと心理学をやりたかったのですが、商学部は統計や経済関係ばかりで思っていたのと違ったというのと、6月受験の模試の成績が思いの外良かったので、東大受験に向けて本格的に勉強し始めました。普通の浪人生が受験に向けて頑張るのとは違って、大学生活と受験勉強の両立を目指さないといけなかったので大変でした。

ー仮面浪人を誰かに伝えていましたか?

 親以外ほとんど誰にも伝えていませんでした。慶應での友達には、受験が終わった後に伝えるととても喜んでくれたので、こうした友人に出会えただけでもこの大学に行って良かったなと思いました。

ー塾などには通いましたか?

 通っていません。自分で一ヶ月ごとのスケジュールを立てて、そこから毎日のスケジュールを組んでいました。予備校だと決まったカリキュラムがあるけれど、通ってない分自分の苦手な部分を集中的にやったりというように、大学にも通いながらで時間もなかったので質を重視して勉強していました。模試を定期的に受けてその結果から勉強の方向性を決めていました。

ー浪人していて一番辛かった時期は?

 特定の時期や出来事で辛いと思ったことはありません。けれども、日常の中で辛いときが何回かありました。頑張ろうと思える日もあるけど、キャンパスやサークルで楽しそうにしている人を見ていると気持ちが揺れて「自分何やってるんだろう」とか思うけど「やっぱり諦めたくない」って思う気持ちもありましたね。例えば、「遊びに行かない?」って誘われてその日が模試だったときは(仮面浪人しているって言ってないから)何か理由をつけて断らなきゃならないときが辛かったりしました。

ー予備校と通うのとは違って、心細かったですか?

 大学生活を謳歌している周りを見ているとつらかったですね……。また、友達からの遊びのお誘いを断ったときは心が痛みました。図書館で勉強していたら気持ちの揺さぶりがきて、「どうして受験勉強なんかしているんだろう」と不安に駆られるときもありました。ライバルの姿が見えないからモチベーションを保つのが難しかったです。

ーそんななか、気持ちの保ち方はありましたか?

 2つ方法がありました。模試がペースメーカーになっていたのが一つ。成績を見て自分の位置を確認したり、伸ばさないといけない分野を見極めていました。「この辺りだから合格に届かないわけじゃないんだ」って思えたことが良かったです。もう一つが、受験生向けの東大の冊子で学部紹介やキャンパスの様子を見て、モチベーションをあげていました。赤門が描かれたポストカードもお守りです。

ー大学の勉強と受験勉強の両立で困ったことは?

 毎回、授業は全て出席して、空き時間に受験勉強するっていうのが一番辛かったです。センター試験が終わったあとに大学のテスト期間があったのも辛かった。現役生が伸びると言われている時期に、自分はセンター試験の自己採点もせずに徹夜で第二外国語のフランス語をやっていました(笑)。

ー仮面浪人のつらい面をお聞きしてきましたが、大学生活を過ごしながら受験勉強していて良かったことはありますか?

 仮面浪人することで、東大ではない別の大学で1年間大学生活を送れたっていうのがなかなかできない人生経験になったと思います。慶應は一般入試以外にAOや推薦や内部進学の人などがいて、バックグラウンドが全く異なる人たちと交流できました。これは東大との大きな違いでもあって、高校のときから勉強を重点的にやってきた自分とは違う人生を皆が歩んでいることや、価値観が違うことを知ることができました。また、予備校通いと異なり、東大に再度落ちても戻れる場所があったのが良かったです。

A.T.さんの一日(例)


2回目の受験勉強、2回目の入試

ー仮面浪人をするには、予定管理能力とタフさが必要そうですね。ここから、浪人していたときの勉強や入試の様子について具体的にお聞きします。

ー現役のときから成績はアップしましたか?

 現役のときは無意識のうちになんでも暗記しちゃってて、何回も解き直すことが大事だと思ってたせいもあって、応用問題が解けなかったんです。なので浪人のときは、間違えた問題は類題を探して解いていました。現役のときは時間がなくて焦って詰め込んでたんですけど、浪人のときは問題を俯瞰的にみられるようになったかな

ー成績が上がったということは、現役のときと浪人のときとで勉強法は変えたんですか?

 現役のときは学校から与えられていたものでアップアップだったからやらなきゃならないものができなかったんです。けど、浪人のときは自分でカスタマイズできるから、例えばできている部分はやらずに一旦離れて、できないところを重点的にやるようにしたのが変えたところです。

ー苦手部分を重点的にやったということは、特定の科目を集中的に勉強したりしましたか?

 日本史が現役のときにできなくて、高校の先生の言葉通り流れを意識していたけど、意識しすぎていて暗記が足りていませんでした。それだとセンター試験も解けないし東大日本史もあんまり得点できない。浪人のときは一回全部詰めようと思ってしっかり暗記したら、年代が分かっているからこそみえてくる背景が分かって、点数があがりました。

ー普段の勉強の様子をお聞きしてきましたが、模試の受け方も変わりましたか?

 現役のときは緊張して自己採点もしたくなかったくらいだけど、浪人のときは気持ちの余裕からか帰ってすぐ自己採点して結果にも一喜一憂しなくなって……結果が悪くても、「悪いって教えてくれたんだな」と思って前向きに捉えられるようになりました。

ー入試本番はどうでしたか?

 2回目の試験だったし、教室も同じで試験の流れも知っていたから現役のときよりも緊張していなくて。あと、たとえ落ちてしまったとしても戻れる場所があるから頑張ろうと思えました。模試でも現役より良い成績を出せていたから、これで落ちたら運がなかったんだなと割り切っていたからパニックにはならなかったです。

ーじゃあ、2次試験を終えて合格を確信していたんですか?

 実はそうでもなくて(笑)。自己採点して、「ギリギリかな」「落ちてるかな」「落ちてたらどうしよう」とか色々考えてました。1年間大学生活だけじゃなくて受験勉強も注力してきたからこそ、「受かりたい」っていう気持ちはやっぱりありましたね。

2つの大学の経験

ー慶應での経験と、東大生になってからとを振り返って比較してもらいました。

ー東大に入って良かったと思うことは?

 優秀な人が集まっているのがすごいと感じました。みんな授業も真面目に聴いて、考えも色々もっていて、博識だし、授業でよく質問もしている。勉学に対して積極的だと感じます。あとは、問題意識や意見をもっていて自立している人が多いと思いました。尊敬できる人がたくさんいるよね。勉強だけじゃなくてバイトやサークルにも一生懸命打ち込んでいて……。東大っていうとどうしても勉強しているイメージになりがちだけど、他のことにも一生懸命な人は多いよね。

ー浪人を経て成長した部分は?

 精神的な成長かな。今までは受験で中学ー高校ー大学っていうふうに上がるレールに乗っかっていたんだけど、大学で(学生生活と受験の)両方をやることで、つらかったこともあったけどタフになれたように感じます。

ー大学生になって成長した部分は?

 アカデミックな文章をよく書けるようになりました。東大は普段のレポートでも先行研究や文献を読まないといけないから、しっかり論文を書けるようになりました。

ーもし慶應生のままだったら今とどう違っていたと思いますか?

 慶應にずっと行っていたら、こうやってpolarisに入って女子高校生に「東大ってこんな感じだよ」って伝える経験はなかったと思います。自分が高校生のときは「東大に行きたい」って思っていて、東大生になってから今度は逆にそう思ってもらえるような憧れられるような立場になって高校生らと交流できるのは、東大に入ってないとできないよね

ー慶應では商学部、東大では文学部社会学専修ですが、慶應と東大で専攻を変えた理由はなんですか?

 もともと統計学と心理学をやりたくて、東大は文3志望で、慶應のときは商学部に通っていました。商学部では面白い分野もあったけど、経済学とか難しいと感じるものもありました。東大に入ってから教養学部前期課程(東大の1・2年生は全員ここに在籍する)で多様な学問を概観的に習って、心理学が想像していたものとは違ったことに気づきました(笑)。一方で、興味をもてた学問もあって、それが社会学だったんです。家族社会学とか都市社会学とか。漫画でジェンダーの視点を読み取る人もいるし、社会学は社会をまんべんなく見られることが特色ですね。

ー東大での勉強とは全く違う分野でしたが、慶應での勉強も視点を広げられるきっかけになりましたか?

 商学部で簿記の授業があったから、慶應をやめても簿記の資格試験のために勉強するきっかけになりました。今でも、金融系のお仕事とかを見ていたら、簿記を活かせそうだなと思えるときがあります。

ー東大に入ってからも、慶應での経験は多様な方面でいきているんですね。すばらしいです!!

メッセージ

ー最後に、メッセージを。

 もちろん、現役で行けるに越したことはないけど、不合格だったときにもしどうしても諦めきれない気持ちがあるなら、自分の気持ちを優先してほしいなと思います。もちろん他の大学に行くっていう選択肢もあるし、そこでの人生は落ちたからといって全然ダメというわけでもなくて、そこで輝ける人もいると思うし、自分の捉え方によります。ただ、もし「もうちょっと頑張りたいな」とか「やっぱり東大に行きたいな」っていう思いがあるんだったら、それは諦めないで頑張って欲しいと思う。実際東大で出会った人たちは、浪人だからといって接し方を変えたりしないし、普通にフラットな関係でいられるし、周りはいろんなことに精通してて、勉強だけでなく他のことにも一生懸命な人はいるし、そこで得られる経験は大きいので、ぜひ頑張ってもらいたいなと思います。

ーありがとうございました!