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インタビュー内容紹介

polarisの新企画 "Another Try! 〜東大女子の浪人体験記〜" 、第12回は、茨城県出身の医学部3年生、M.S.さんにお話を伺いました。



都道府県:

茨城県

名前:

M.S.さん

出身高校:

私立、中高一貫

学部:

医学部

学年:

3年

高校の部活:

生物部、ESS部

中学の部活:

陸上、クロスカントリー

"Another Try! 〜東大女子の浪人体験記〜"第12回は、茨城県出身の医学部3年生、S.M. さんにお話を伺いました。

姉と二人の浪人生活

ーでは早速お話を伺っていきたいと思います。現役の時も東大を受験されていましたか?

 現役の時は、前期に東京大学の理科2類に出願しました。医者になりたかったわけではなく、生物系の研究者になりたかったんですよね。

ーそのころから生物系には興味があったんですね!

 そうですね!

ー浪人を決断したのはどういった状況だったのですか?

 もともと1年目は落ちたら浪人するつもりでした。私立の理系は学費が高いので・・・慶應は記念受験でした。なので、特に混乱はなかったです。周りから反対されることもありませんでした。

ー浪人は精神的にはどうでしたか?

 最初は頑張るぞ、と意気込んでいましたね。浪人するタイミングで、親元を離れて姉と東京で暮らし始めました。先生にも「地元では伸びにくいから浪人するなら出た方がいい」と言われたのが理由です。予備校に通い始めてからは引っ越したばかりでワクワクして、毎日新鮮でした。田舎から東京に出てきて前向きに楽しめていましたね。予備校で新しい友達もできましたし。

ー浪人生の多くは寮か実家から予備校に通うと思うのですが、お姉さんと二人とはいえ、下宿で浪人という生活はどうでしたか?

 生活リズムが合わなかったですし、けんかになるのを避けたかったので完全に姉とは家事を別々にしていました。食事も洗濯も、各自でしていましたね(笑)

ーとなるとさらに家事の時間がかかってしまいますね!?

 家事は勉強の気分転換みたいなものだったので苦ではなかったです。家事の分、遅くまで頑張ろうと思えていたので、家事があったおかげで遊ぶ余裕がなかったです。

ー自立していますね!

 当時は自立できていましたね。健康的な食生活かと言われたら微妙でしたけど……

ー浪人して良かったことはありますか?

 東大に合格できたということももちろんですが、浪人時代に大学には行ってからも続く良い友達ができたことですね。あとは、いろいろな気持ちを知ることができました(笑)

ーというと?

 私は浪人するまでストレスたまりすぎて人に冷たくしてしまったり、人の優しさをはねのけてしまったりする人の気持ちがわかりませんでしたし、さみしいと感じたこともなかったのですが、浪人中にこれらの心情を理解できるようになった気がします。経験したので。

ー浪人して後悔はありますか?

 ありますね……どうしようもなかった理由で浪人しているとはいえ。浪人期に勉強を頑張りすぎてしまって、大学進学後に勉強をしたくないモードに入ってしまいました。もちろん、私個人のケースなので他の人に当てはまるわけではないんですけど。

推薦入試合格!

ー志田さんは推薦入試で合格されたそうですが、推薦って現役のイメージが強かったです。どういった経緯だったのですか?

 実は、現役の時も推薦入試で出願しようと思っていました。東京大学の教育学部の理系寄りの研究室に興味があって、書類まで作っていました。ただ、理系寄りのことをしたいのに教育学部に行くと、理系方面の学びを大学で深めにくいのかな、と考えたり、先生からの猛反対があったりして諦めました。先生は前期の勉強だけ頑張れば現役で受かるから、とおっしゃってくれていたのですが、自分はそうは思えなくて。推薦だったら現役でも行けるかなと思っていたのですが・・・

ー生物系の研究者という目標と教育学部というのは一見離れていますが...?

 やりたいこと自体はあまり変わらなくて、研究者に憧れがあり、生物部に入っていて研究するとしたら物理とか数学より生物系かな、と思っていました。高校の科目として生物はとっていなかったんですけどね。生物系の研究者になりたい一方で教育にも興味がありました。これは中学の時に親の仕事の都合でドイツで受けた教育がよかったと感じたからです。研究者になりたい、という気持ちが先にあって、その対象がドイツでの経験から関心をもつようになった教育と、生物系の二翼があったという感じですね。

ーそれが現在の医学部にどうつながるんでしょう?

 教育学部で興味を持っていた研究室は赤ちゃんの発達について調べているところでした。胎児、乳児の発生発達の過程についての研究ですね。自分が将来教育をよくすることをしたいが、そのためにはいろいろな方法があります。先生とか、政治家とか、研究者とか。その中でも私は研究者になりたくて、教育の研究をしている人がいると知って面白いなと思い、そういった研究を基に教育をよくしていけたら、と思っていました。また、高校生の時に子供と接する活動をしていたこともあって、自分と全然違う生き物にさえ感じられる子供たちがどのように変わって成長していくのか不思議に思い、発達や発育についていろいろ知りたいと考えていました。これは教育学部に推薦を出してみたかった現役時に考えていた内容で、書類もこういったことを書いていました。

ー浪人時代はそこからどう変わったのですか?

 基本的には大きく変わってはいないのですが、やはり理系に進もう、と思うようになりました。東大の理系を受ける人用の予備校のコースに通っていました。二浪はしないと決めていたため、時間のある浪人期間中に今度こそ推薦にもチャレンジしよう、と思いました。そこで、浪人生も対象になるところを探していたところ、実はその前年に出そうとしていた東大が浪人生でも出せることを知り、どの学部がいいかを考え直し始めました。この時、医学部に興味を持ち始めていたためいろんな医学部を探していたのですが、実は東大の医学部の推薦に要件を満たしているのでは、と気づきました。やりたいことが変わって医学部がいいかな、と思い始めていたため、まさにぴったりでした。

ー考えはどのように変わったのでしょう?

 幼少期のトラウマチックな経験が成年後も社会性に影響する愛着障害に関する本を読んでいて、心理学ではよく出てくる話なんですけど、生物的な基盤がよくわかっていません。一応、精神疾患に分類されて診断用ガイドラインもあるのですが、疾患の仕組みはよくわかっていないため、仕組みを解明したり、治療法や予防法を見つけたいと思うようになりました。

ー愛着障害という話はどこで出会ったのですか?

 浪人期によくかかわった人の中に実例があったことが大きかったです。あまり教育とかほかの話とかから流れ着いたのではなくて、人の発育も高校生の頃から興味があった内容で発達や発育に関連があるという意味では共通点もありますが、身近な人が大きいですね。

ー広い興味があって、生物系の研究者や教育系、そして医学部へといろんな柱があるんですね

 そうですね、何となく定まった方向性の中で、いろいろな興味がありました。全部がストーリーとしてつながっているわけではないですね。

ー浪人期にやりたい内容が変わって、推薦で医学部に合格されてますが、前期を理科3類に変えようとは思わなかったのですね。

 医学部は推薦以外出願もしてないんですよね。東大の対策を現役の時からしてきていて、東大を受けるのが安全という感じだったこともあり、また二浪は絶対にしたくなかったので理科二類を志望したままでした。また、他の医学部と違って東大医学部の推薦は研究者養成コースのような性質があって、私は医者になりたいわけではなく、あくまで研究者になりたかったので東大医学部の推薦だけ出して、前期は理二に出願しました。

ー確かに医学部って職業訓練学校の性格が強いですものね。推薦で出願されたということは、なにか高校時代に課外活動をされていたのですか?

 東大の医学部の推薦には豊富な国際経験とそれに伴う語学力が必要なんですが、自分の場合は1年半ドイツに住んだ機会があったり、高校の企画したプログラムでオーストラリアの高校に行ったり、研修旅行でシンガポールとマレーシアに行ったり、あとは高校が日本への留学生を積極的に交流させてくれていたので、それに参加したりしていました。

ー合格発表はどういった感じでしたか?

 推薦の発表は2月なんですけど、普通に前期の勉強真っ盛りなんです。面接の手応えも微妙だったので、発表の日も朝から予備校の自習室にいて、自分に期待させないように自習室でちょっとスマホで、とりあえず確認しようと見ました。

ー予備校の自習室でしったんですね!?

 そうですね(笑)

東大の中でのマイノリティ

ー今度は、大学御入学後のお話を少し聞いてみたいと思います。

大学に入ってから周りに浪人している人はいましたか?

 推薦の同期には他に2人いました。あとは、クラス内でで一番仲良くなった人も浪人生でした。

ー浪人生徒の方が仲良くなりやすいですか?

 たしかに、入学当初は、浪人の経験がある人に親近感を感じましたね。私は特に気にしないですけど、付き合うんだったら浪人した人がいいと言ってる人はいました(笑)挫折を経験したことがある人じゃないと分かり合えないと思っているそうです(笑)

ー浪人していることで大学に入ってから現役の人との壁を感じることはありましたか?

 浪人の終盤、人と話さなくなったため、大学には行ってから特に大人数でわいわいしている輪に入る方法が分からなくなっていて困りました。大学入学直後はオリエンテーションやサークルの新歓などがあり、そのような機会が多いので……

ー浪人していなかったら、自分はもっとうまく立ち回れたはずだと?

 そうですね(笑)

 推薦でかつ理科3類であることで、私は仲良くなりたい、輪に入りたいと思っていたのに、逆に壁を作られたと感じたこともありました。推薦生数も、理科3類の生徒数も、浪人生よりも圧倒的に少ないので、そちらの属性の印象が強いようで、自己紹介で属性を言ったら態度を変えられることが幾度もありました。所属で自分のことを決めつけられたり、態度を変えられることはあまり良い気分はしないですよね。

ー東大の中でマイノリティだと様々な苦労がありますね……

 そうですね……態度を変えられたり、敬遠されても、気にせずに自分のことを知ってもらおうと思って話せば、仲良くなれることも知ったので、今は自分の属性で苦労することはほとんどないですけどね!

ー様々なお話をしてくださり、ありがとうございました!最後に受験生に向けたメッセージをお願いします!

 目標をもって頑張ることは意味のある経験だ思うので、頑張ってください!絶対にこの大学に行きたい!と強く思っているなら浪人してがんばるのもありだとは思いますが、受験や学歴が全てではありません。東京大学以外の大学もそれぞれ特色があって魅力的ですし、皆さんが将来やりたいことは、東京大学以外でも学べるはずです。悔いのない選択をするのが一番だと思います。!

 私は幸いにして、性別を理由に、東大受験や浪人に反対されることはありませんでしたが、高校時代に仲の良かった女の子の友達の中で、親が弟の成績は気にしているけど自分の成績や大学受験に興味がなく、「近場の大学に進学してほしい」と言われたと言っていた子がいました。今まで大切に育ててくれて、今後も学費も払ってもらうことになる親の反対を押し切るのはなかなか大変なことだと思います。その友人の話を聞いていましたし、推薦で受験することに先生に反対された際、親も反対に傾いた時期があったため、親の反対を押し切ることの大変さはわかります。ですが、もし、女の子であることを理由に反対されて諦めようと思っているなら、もう少し説得を頑張ってみてほしいです。日本のトップの大学に女性が2割しかいないのは、おかしいと思いませんか?ただおかしいというだけではなく、社会全体にとっても良くないことですよね。東大の卒業生の多くは、日本や世界をリードして、社会をつくっていくことになります。社会をよりよくしていくにあたって、女性の声は必要ですし、女性が働くことで、男女ともに働きやすく生活しやすい環境になります。

 東大の外で東大生だと言うと、敬遠されたり距離を置かれることは残念ながらあります。東大の男性は東大の外でモテるのに、東大の女性は東大の外でモテないというのも、事実無根ではないと思います。皆さんの中には、このようなことを理由に東大志望を反対されたことがあるかもしれません。ですが、こういった社会の空気感は変えていけると思っています。私の周りにいる東大の女性は皆さん素敵ですし、東大生の多くもそのことを知っています。少数派であるために、偏見をもたれたり、知られていないことが多いだけだと思います。東大の女性が増え、一人ひとりが自分を知ってもらうことで、このような空気感は変わっていくはずです。

 もちろん、受験生自身の努力だけではどうにもならないこともあります。東京のような大都市で、安全でかつ家賃が安い住まいの確保が難しいことは、親が娘を地方から東京に行かせたくないと思う理由の一つだと思います。実際、豊島や三鷹の学生宿舎などの大学の寮があり、1万円台で都内で生活できるのですが、受験生やその親には殆ど知られていません。また、女子学生には東京大学から家賃の補助が出ることが数年前にテレビなどで取り上げられ話題になりましたが、選べる住まいが限定されていて、どれももとの家賃が高いため、補助が出ても払う金額は安くないため、私自身を含め、私の周りでは利用しなかった人がかなりいました。大学側の女子学生を受け入れる態勢に関しては、まだまだ改善の余地があると思います。

ーありがとうございました!